アートを通じての自分探し、自分育て

子育て環境を
大人がどう作っていくか、
ずっと考えています

『ハート&アート空間 ビーアイ』を主宰する
関口玲子さん(左)とスタッフの清水千佳さん(右)

アートを通じて自分を育て、誰かのためになる未来を創る

西公園通をはさんで西公園を見晴らすビルの2階に『ハート&アート空間 ビーアイ』がある。”BeI(ビーアイ)”とは、”自分であれ”という意味。 子どもたちが、様々な活動をしながら”自分であること”を見つけ育てる”心と創造の空間”だ。 『ハート&アート空間 ビーアイ(以下、ビーアイ)』の代表である関口玲子さん、スタッフの清水千佳さんに話を伺った。

自分育てと同時に社会貢献も

1987年に始まった『ビーアイ』は、学校でも、絵画教室や塾でもない、児童館とも違う。宮城県美術館の立ち上げにも関わるなど、アートにとどまらず多方面で活躍する関口さんは「アートも大事ですがこれからは絵だけを描いていればいい時代ではない、アートを通じて自分を育てながら社会にも役立つ人になっていかなければ、と思い『ビーアイ』を立ち上げました」と振り返る。「人、モノ、自然、言葉とどう出会うかを体験し、自分のためになることをしながら、誰かのためになる『ビーアイ』でありたいと思っています」。子どもたちは週1回通い、独自のカリキュラムにより、絵を描いたり、作品を作ったり、料理をしたり、外に出て自然や人とふれ合う。 それらを通じ、見て感 じたことを自分なりに表現していく。「様々な体験を通して、自分が自分であることを見つけたり磨く時間と空間を用意するのが『ビーアイ』で、スタッフはそれを手伝うだけです」と清水さん。約30年の間に、1900人を超える子どもたちが関わり、巣立った。18年間通い続けている人、親子二代で通っている例もあるという。また、「金継ぎ教室」「表装ことはじめ」など、大人向けの講座も行なっている。 失われてゆく日本伝統の技を伝えていきたいと始めた講座だ。

せんだいまち力 ミュージアム

「『ビーアイ』のテーマは二つあります。一つは、子どもとどういるか。もう一つは、自分たちが住む仙台・宮城のポテンシャルを上げること。子育て環境を、自立した大人がどう作っていくか、ずっと追い続けています(関口さん)」。

『せんだいまち力ミュージアム(『ビーアイ』を中心とする実行委員会が主催)』もそのテーマを実践している一例だ。街をまるごとミュージアムに見立て、仙台市中心部のお店やギャラリー約20カ所に、子どもたちが描いた絵や造形作品を飾ってもらう企画だ。「30年のうち22年間は、宮城県美術館で催していましたが、16時40分で閉館になるためお父さんが見に来られない。そこで街なかで展覧会をしようと考えて、お店に場所を貸してほしいと頼んだら皆さん協力的で二つ返事でOKでした」。そうして始まった『せんだいまち力ミュージアム』は、3月に8回目を終えたばかりだ。

街と人の出会いを生む展覧会

今年の『せんだいまち力ミュージアム』はビーアイの30周年記念展でもあり、何か子どもたちが喜ぶことをしたいと、関わりの深い個人・法人に、子どもたちが描いた350点位の絵からいいと思う絵を選んで、賞を贈ってほしいと依頼した。皆さんは真剣にいい絵を選び、その子の個性に合う賞品を贈ってくれた。そして、子どもたちは飾ってくれた店を回って挨拶をした。賞をくれた方にお礼状を書いてきた子もいて「里親になったような気分。ずっと見守っていきたい」「こんなに楽しい展覧会はない。子どもたちが来ると賑やかで楽しい」という声もあったという。

「今は、人が人として会話をしないまま買い物をするのが当たり前になりました。コミュニケーション能力を育てる場所や環境がありません。街で展覧会をすることで、子どもたちとお店の人のやり取りが生まれてほしいし、子どもたちが親やおばあちゃんと来ることで、新しいお客さんになればという思いもありました」。その願いはカタチになり、単に子どもたちの絵を飾るだけではく、街が賑やかになり、出会いを育んでいる。

西公園を遊ぼうプロジェクト

関口さんが代表を務める『西公園を遊ぼうプロジェクト』も仙台のポテンシャルを上げる活動だ。平成23年の東日本大震災後、木々や草は伸び放題で、子どもたちが外で元気に遊ぶ姿が見られなくなり、すっかり寂れてしまった西公園を活気のある公園に再生したいと、ビーアイが事務局となり実行委員会を結成。2014年からプロジェクトを開始した。「広瀬川のせせらぎが聞こえて、青葉山が望めて夕日が美しい。仙台のど真ん中、地下鉄駅から徒歩3分に10万8000㎡の素晴らしい公園がある、その価値を知ってほしい」という関口さんの強い想い。「西公園を庭のようにしたい」と、事務所にこの地を選んだ。ビーアイの子どもたちが自由な発想で遊びを考え、語らう場でもある。これまで 、木々の剪定や草刈りを定期的に行ない、西公園の使い方を考えるシンポジウムや西公園の魅力を伝える人材を育てる『西公園フロンティア養成講座』、西公園まつりなどを開催。プロジェクトを開始して3年目ぐらいから、少しずつ成果が見え始め、ようやく公園に活気が戻ってきた。

公園を自分の庭の延長と捉える

「私が子どもの頃は、社会貢献という言葉がなくても、自分の家の庭だけじゃなくて隣の庭や神社の庭などの掃除や手入れをすることは当たり前でした。自分たちの公園だから、自分の庭の延長のつもりで考えたいですね。行政が何かやってくれる、と求めるだけではなく、なんでも自ら動いて楽しみながら社会や街をつくっていければと思います」。

大人にとっても“Be I(ビーアイ)=自分である”は難しい。自分探しは永遠に道半ば。それでも、自ら動くこと、周りと力を合わせることで、少しずつ“アイ(I、そして愛)”が見えてくるのではないだろうか。

[DATA]

ハート&アート空間 ビーアイ
仙台市青葉区立町20-11 ミカミハウス2F Tel.022-262-2969

■営業時間

10:00~18:00

■休業日

日曜・祝日

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